認知症の妄想について
認知症症状の種類のひとつに、「妄想」があります。
そして、この妄想の中の「約8割」に及ぶのが「物盗られ妄想」と呼ばれるものです。
物盗られ妄想は、認知症の方が自分の現金、通帳、貴重品の類を「誰かに盗られた!」と訴えるものです。
その「誰か」というのが、ご家族や介護ヘルパーなどであることが大半なので、対応に苦慮することが多いのです。
次に多いのは、「嫉妬妄想」という、配偶者が浮気をしているという妄想です。
夫や妻の外出が多かったり、冷たく接したというだけで浮気を疑い始め、やがて強く思い込むのです。
ちなみに、私の母は、すでに亡くなっている父の浮気相手が来た!と嫉妬妄想をいだいておりました。
本当に、妄想中の妄想という感じでしたね。
ここでは、そんな認知症による妄想についてご説明します。
認知症の妄想には激しいものもある
認知症の妄想には、非常に強い「被害妄想」を抱く場合があります。
たとえば、ご近所の誰々さんが私の悪い噂を広めているとか、私をいつも馬鹿にしているなどと言い始めたら、被害妄想を疑ったほうが良いかも知れません。
これらの妄想の厄介な点は、ふつうの「思い込み」というレベルのものではないということです。
ご本人には確信のある(・・・と信じている)ことなので、いくら理論的に説得しようとしても取り合わないという特徴があるのです。
そして、少しタイプの違う妄想に「妄想性人物誤認症(もうそうせいじんぶつごにんしょう」と言うものがあります。
妄想人物誤認症には、いろいろな症状があります。
- 身近な人達がそっくりの別人とすり替わったと信じ込む…「カプグラ症候群」
- 自宅に知らない人(たち)が住んでいると訴える…「幻の同居人」
- 鏡に写った自分を理解できずに他人として接する…「鏡徴候」
- テレビの世界を現実と思って行動してしまう…「TV徴候」
などなど・・・認知症の方に対して「あれ?」と思った時には、妄想人物誤認症を疑った方が良いかも知れません。
認知症の妄想への対処と薬物治療
認知症の方の「妄想」に対しての対処をご説明しましょう。
妄想に対しては、まず、「それは妄想だよ!」などと、否定や説得をせずに、じっくりと耳を傾けることが大切です。
つまり、ご本人の理解者であり協力者であることを示すのです
そもそも、妄想の心理的な根っこの部分には、ご本人の不安や孤独感、自信喪失などがあります。
ですから、そんな心理状態に対しての日頃の接し方が大切と言えます。
介護者が良き理解者となっていない場合、妄想がさらに加速していくこともあります。
また、妄想は、身近な人の言動の一部だけを取り上げて、悪い方向に考えを巡らせたりすることもあります。
こちらとしては、そんなつもりがなくても、ある言葉だけを取り上げて、誤解してしまうのです。
一般的な妄想の治療には、向精神薬(こうせいしんやく)の投薬があります。
向精神薬とは、「精神へ向かっていく薬」と書きますので、要するに「精神に働きかける薬」のことです。
ただ、精神に働きかけると言っても、精神や心という目に見えないものに薬が効くわけではありません。
認知症の症状を作り出している「脳」に作用する薬という意味になります。
しかし、投薬というのは、あくまでも症状を抑えるためだけの「対症療法」でしかありません。
できることなら、妄想の背後にあるものを介護者が察知し、それを取り去ることが最良の対処法と言えるでしょう。